01年のデビュー・アルバム『TERRY LINEN』のビッグ・ヒット&驚異的ロング・セールスで日本でも高い人気を誇るシンガー、TERRY LINEN。その久々となる新作(『セカンド・アルバム』)=『WELCOME TO MY WORLD』が遂に登場。新作はレペゼン・マイアミの「歌もの職人」のLLOYD CAMPBELL率いる〈JOE FRASER〉とタッグを組んだ美歌・美曲レゲエ作品。新作への想いに加えて、改めてそのキャリア等も語ってもらいました。話好きでせっかちでした。
◆TERRY LINENさんですか?
モシモシ〜(笑)
◆もしもし〜(笑)。えー、今日はヨロシクお願いします。色々と聞かせて下さい。
こちらこそ。電話待っていたんだ。もう少しで出掛けないといけないところなんだ。でね、今回の新しいアルバムというのは〜
◆あー、ゴメンなさい。ちょ、ちょっとその前に改めてキャリアを確認させて下さい。既に知っている人も多いとは思いますけど、初めて知る人のためにそれを紹介しましょう。キャリアのスタートから教えて下さい。
いいよ。まず、歌い始めたのは子供の時からになるね。幼い時からね。セント・エリザベス出身だ。田舎の方だね。自然と歌うことが好きで歌っていた。本格的にシンガーを志したのは10代、BLACK KATで歌い始めたんだ。そう、サウンド・システムがスタート。そうそう、PANTHERのサウンド。本気でシンガーを志すことしたのはGARNETT SILKの影響が大きいね。とにかく彼の歌、歌声、メッセージ、スピリチュアリティに惹かれたんだ。彼は94年に亡くなってしまうんだけど、彼みたいなシンガーになりたいって思ったんだ。そう、GARNETが「SILK」だから、自分は「LINEN」にしたんだ。それぐらい影響を受けているんだ。
◆サウンド・システムで歌いながら、どうやってレコード・デビューのチャンスをつかんだんですか?
BLACK KATではなく、MILLION INTL.という別のサウンドの人と出会って、彼らが「レコーディングしよう」と言ってくれてキングストンのペントハウス・スタジオに行くことになったんだ。でも、行ってみたら、彼らは実際にはどうやってレコーディングをするのかが全く分かってなかったんだよね。で、その時に彼らだったか、スタジオにいた誰かが「田舎から来た歌えるユーツがいるぞ」って連絡したのが(ANTHONY)RED ROSEで、彼が様子を見に来て、レコーディングを手伝ったくれたんだ。「Sweet Casandra」という曲を録ったんだ。それが初レコーディング。で、その出会いでRED ROSEの〈REGGEDY JOE〉で曲を録るようになって、「Your Love Is My Love」「That's The Way It Is」「Thank You Mama」「Storm Is Over」「Couldn't Be The Girl For Me」・・、みんなが知っているヒット曲ばかりだと思うけど、そうした曲を作って、それらの曲をRED ROSEがVP RECORDSに売り込んで『TERRY LINEN』でアルバム・デビューしたんだ(2001年)。
◆『TERRY LINEN』は日本では現在でも売れ続けている作品です。
TERRY LINEN
VP RECORDS / VP1627
01年デビュー作。人気を決定付けた大ヒット&驚異的ロング・セラー作。「Your Love Is My Love」「Storm Is Over」「That's The Way It Is」他大ヒット大量収録!
うん、知っている。日本にはこのアルバムのおかげで知られるようにもなったし、何度も呼んでもらえることになったしね。どうだろ? 4、5回は行っていると思うよ。最初は日本人が自分に合わせて歌詞をその通りに歌ってくれたのには驚いたよ。「そんなに知られているのか?」って。ジャマイカではBLACK KATとかサウンドの人達がたくさん曲をプレーしてくれて、それがラジオでもプレーされるようになって知られるコトになったんだけど、それが日本のサウンドの人達にも伝わったのが大きかったんだと思うよ。
◆日本でのプレー頻度はスゴいですよね。
知ってた? あのアルバムにはあれだけヒットが収録されているのに 一曲もオフィシャル・ビデオがないんだよ。あり得ないと思うんだよ。今でも納得してないよ。まぁ、誰も知らない田舎のユーツだったし、ある意味全く期待されていなかったんだろうし、まともにアルバムのプロモーションもしなかったんだけど、それに関係なく曲はドンドンと流れることになって知られたことは自信にはなったよね。ジャマイカだけではなく、日本のサウンド・マンからもダブとかの依頼が来るようになって、それが日本でもプレーされることでより知られることにもなったんだと思う。うん、顔や名前よりも曲が知られたんだと思うよ。サウンド・マン達には感謝しているよ。えっ? 何曲? いやー、ちゃーんと数えたことはないけど、日本のサウンドにはものすごい数のダブを録ってきているハズだよ。間違いなくね。ああ、中には「友達の結婚式用に」って頼みに来た人もいたね。日本人の結婚式に流れるかと思ったらビックリしたけど。まぁ、その友達が今も幸せならいいんだけど(笑)。
◆「歌声」「カヴァー」、色々とTERRY LINENが日本で成功した理由は言われていますけど、ご自身ではどう思います? 実際に日本でも歌われている中での印象としても。
日本人は曲をちゃんと聴いてくれていると思う。音を感じてくれる、と言うのかな。音楽をよく知っているし、歌詞や言葉の壁はあるだろうけど、歌声や音のフィーリングをキャッチするのが上手いんだと思う。さっきの結婚式のダブでもそうだけど、単にラヴ・ソングだからではなくて、自分の歌に込められている愛も感じ取ってくれていると思うし、そこを好きになってくれていると思う。自分は歌に愛を込めて歌うからね。だから、日本のショーでは言葉の問題がある分、より強く愛を込めて歌うことにしているし、それが伝わって、何度も日本にも呼ばれるんだと思うよ。
◆はい。で、『TERRY LINEN』の後に、『GIVE THANKS AND FRIENDS』、『A BETTER MAN』をリリースして・・、
あー、ちょっと待って。まず、『GIVE THANKS AND FRIENDS』は日本からオファーを受けて(KOYASHI / ROCKERS ISLAND)、RED ROSEが〈REGGEDY JOE〉で録った曲を構成してリリースした日本だけのアルバムなんだ。ジャマイカや他の地域ではリリースしていないんだ。そう、日本のファンのための特別盤って感じなんだ。あと、『A BETTER MAN』は〈TADS〉が無断でコンパイルしてリリースした作品で、リリースを止めるように求めたもので自分の中では自分のアルバムとしては認めていない。ああ、許可していないよ。だから、自分のキャリアには存在していないよ。
◆ああ、そうですか・・、
うん、だから、今回の新作『WELCOME TO MY WORLD』が自分にとっては正式なセカンド・アルバムなんだ。13年振りで自分でも興奮しているんだ。だから、その話をさせてくれよ。
◆わかりました、では、新作はいつから制作を開始したんですか?
2012年に録った曲もある、「I Look To You」とか。ただ、アルバムとして制作を本格的に開始したのは2013年で秋までにほぼ仕上がった感じなんだ。〈JOE FRASER〉のLLOYD CAMPBELLとはずっと「アルバムを作ろう」と言っていたけど、そのタイミングが来たってことだね。LLOYDはアイディアをくれたり、リディムのデモをくれたりしたけど、ただ自分は歌うだけではなくて、自分からもアイディアを出したり、ミュージシャンに指示を出したり、彼らからもアイディアを出してもらったりして制作したんだ。誰かや自分の意見だけでなく、みんなの意見を聞く方が内容は良くもなるし、広がりも出るからね。そうやって周りの意見を取り入れつつ、自分が主体となって作ったアルバムは今回が初めてだよ。
◆新作もステディなワン・ドロップが中心となっています。
自分はダンスホールも好きだよ。それとレゲエのワン・ドロップを分け隔てなく愛しているよ。ただ、歌に込めた愛やメッセージを伝えるにはワン・ドロップの方が伝わるとは思うかな、経験からしても。それこそがレゲエらしさだとも思う部分もあるしね。自分が好きで求めているレゲエかな。GARNETの影響で志したのもそうだけど。だから、ワン・ドロップを強く意識するというよりも、LLOYDとも確認・意識していたのは「レゲエ」だね。さっき「デビュー・アルバムが現在でも売れている」って言ってくれたけど、あれもワン・ドロップなレゲエな作品だし、それが時代を超えても有効ということを証明しているだろ? 自分はシンガーだし、自分の歌で自分の愛やメッセージを届けたいんだ。ダンスホールのリディムの流行とかトレンドとかも勿論大好きだけど、自分としてのスタイルもヴィジョンもあるからね。
「WELCOME TO MY WORLD」だよ! 「MY WORLD=自分の世界」というのは「愛」なんだ。それは男女間の恋愛という意味での愛だけではなくて、広い意味での愛のコトも指すんだ。今、こうして話している間も憎しみ合い、傷つけ合い、銃を持っている人もいる。ただ、それではホントの意味では何も解決には至らないし、愛こそがそれを唯一乗り越えられるんだ。愛が邪悪を乗り越えるんだ。わかる? 「争いをやめろ」「銃を置け」と自分が歌う愛からくるもので、そうした愛の大切さを、様々な愛の大切さをそれぞれの楽曲に込めて、それを一枚のアルバムとして届けているんだ。そうした愛に包まれた世界こそが自分の世界で、そこにみんなを「WELCOME=招いている」んだ。いいかい? 人間というのはスピリチュアルな生き物なんだ。そう神が創造したんだ。それを理解しない人が多い。自分はスピリチュアルな人間で、リアルな現実と向かいつつ、それをどうすればもっと良くなるかを思想して行動に移す人間なんだ。その上で自分はシンガーだし、今回の作品も世界中に届けられるのなら、その中で自分が伝えるべきメッセージを歌に込めて、愛を込めて歌っているんだ。デビュー・アルバムとは違って、「田舎のユーツ」から成長した自分が中心になって周りの意見や協力も受けて作り上げた本物の自分のアルバムなんだ。
◆今回も期待されていたカヴァー曲が多いですね。
「I Look To You」はR.KELLYがWHITNEY HOUSTONのために作った曲だ。彼女が亡くなった時に彼女へのトリビュートも込めて歌ったんだ。彼女は本物のシンガーだからね。男とか女ではなくて、シンガーとして心から尊敬しているんだ。「Shoop Shoop」も自分の好きな彼女の歌なんだ。前作でも「Your Love Is My Love (My Love Is Your Love)」を歌っているしね。
◆今後にビデオを制作予定の「As If I Didn't Know」とか「Venus」とか、年齢を考えると昔の曲と言える曲のカヴァーもありますね。
LLOYDの意見だ。自分よりも年上の曲だね。自分の好きな曲とかに限定してしまうと、聴く人の世代とかも限定してしまう可能性もあると思ってバランスを取ったんだ。幅広い年代から選ぶことで聴く人の幅も広がると思うんだ。様々な世代の人に聴いて欲しいし、カヴァーを通じて自分を知ってくれる人も増えると思うし、自分達が歌うことでオリジナルを知らない人達にもそれを伝えられるのもいいことだと思うんだ。
◆TOOTS & THE MAYTALSの「Bam Bam」のリメイクもあります。
ジャマイカのラジオとかでもプレーされているよ。TOOTSのオリジナルもだけど、この曲はこれまでに色々な人達がリメイクしてきているから、自分がどうそれをフレッシュに歌うかに注意したね。ジャマイカにとっては誰もが知っている名曲だし、失敗は許されないよ。幸いにして反応は良いし、自分達の世代やユーツからは「オリジナルよりいい」って言ってもらったりもしているよ。カヴァーもそうだけど、こうした有名な曲を取り上げることで、その曲を知っている人が注目して聴いてくれることにもつながるから、現在でも自分は知られてはいるけど、もっともっと世界に知られるためにはそうした取り組みは大切だと思うんだ。
◆わかります。
「Bam Bam」って日本では知られている? そっか、そうだよね、日本はレゲエをホントによく知ってくれているもんね。みんなの反応も楽しみだよ。で、日本のみんなにヨロシク伝えて欲しいんだ。うん、また行きたいよ。今度はバンドで「ショー」ではなくて、ちゃんとした「TERRY LINENコンサート」で行きたい。何回も行っているけど、まだ自分の全てを伝え切れてはいないと思うんだ。それをするにはバンドで行きたいんだ。「ショー」じゃなくて完璧な「コンサート」をしたいんだ。呼んでよ。誰かそれに相応しい人を知らない? あっ、そろそろ時間かな? そろそろ行かなくちゃ。
◆いやー、ちょっと待って。もう少しだけ。いきなりですけど、デビュー・アルバムから13年目になりますけど、どうやってその美声を保っているんですか?
自然からの贈り物だよ。特別なコトは何もしていない。喉を守るために、冷た過ぎたり熱過ぎる飲み物は飲まないようにしよう、と無意識にしていることは多いけど、特にはしていないね。神が授けてくれた声だよ、僕の歌声は。
◆ラッキーな人ですね。あと、少し戻ってキャリアのコトでもあるんですけど、ジャマイカのレゲエ・アーティストは作品が多いですし、色々なレーベルから楽曲をリリースし続けている印象が強いです。その中では活動期間を考えると比較的にリリース量は少ない方ですし、言われた通りだとすれば、新作も未だセカンド・アルバムです。13年振りになります。あと、これまでの活動期間をどこかのレーベルやクルー、マネージメントに属することなく、ずっと一人でシーンの中で立ち続けているように見えています。そうした活動のやり方には理由はありますか?
さっきも「LLOYDとやるタイミングが来た」と言ったと思うけど、自分は誰とでもいつでも録音することはしないんだ。どんなリディムでも、どんなプロデューサーでも歌うタイプではないんだ。なんて言うか、リアルなんだ。自分が歌いたいとか、歌うべきことがあるとか、一緒に作るべき相手でタイミングと自分がリアルに感じないとそうしないんだ。そうだね、相手にもリアルを求めてしまう時もあるね。どうして自分とやりたいのか、ってね。あと、もともとは「田舎のユーツ」でそうした気質が変わっていない部分もあるかもしれない。変なゲームに参加するのが苦手と言うか合わないんだ。それと、さっきも言ったように自分はスピリチュアルな人間なんだ。歌う意味、生きる意味、人生を大切にしているんだ。うん、そうしたことの大切さも自分の歌には込められているとは思う。自分自身を愛せないで、人を愛することはできないさ。
◆自分のスタイルですね。
うん、それがないと逆にこの厳しいシーンや状況を生き残れないと思うよ。幸いにしてそれで続けられている。こないだの「REBEL SALUTE」でもいい反応を受けたし、ココからジャマイカだけでなく、カリブやニューヨークやマイアミのショーも続くけど、そうした時に愛を込めて精一杯歌って届けるんだ。それが伝われば、その次の道は拓けるし、もっと広がって行く。できることをするだけ。愛を持ってね。
◆愛ですか。
愛だね。
◆今日はありがとうございました。
こちらこそ。さっきも言った通りに日本のファンにヨロシク伝えてくれ。日本が自分にとってはホントに大きなファン・ベースになっていて、長年のサポートに感謝している、って。今年は是非行きたいからそれまでアルバムを聴いて待っていてくれ、って。日本のファンに愛を贈る、って。頼んだよ。
INTERVIEW & TEXTED BY: 八幡浩司(24x7 RECORDS, INC.)
2014年1月24日 電話にて。
Special Thanks to LLOYD CAMPBELL(JOE FRASER)